スペインは歴史の街。紀元前3,000年ころアフリカから渡ってきたイベロ族、その後フェニキア人、北からのケルト人、ローマ人、ゲルマン諸族、そしてイスラム勢力の拡大とともにやってきたベルベル人。多様な民族の混合は、長い歴史の中でこの国独特の文化・風俗・習慣を生みだし、人間模様を織りなしている。
このようなスペインの多元的であり多様な歴史は、今でも街のあらゆるところに壮大なドラマを秘めて残されている。スペイン各地に残されている『古城』を訪ねると、この国のもつ入り組んだ複合性を垣間みることが出来るでしょう。

第16城 ベルモンテ 後編(Belmonte/クエンカ) 
 
城内は自由見学(入場料300ペセタ)。思わぬ所に通路があったり、階段から思わぬ所に出てしまったり、見学はなかなか楽しいのです。お城の入口は村の反対側。まずは城壁に開いた門をくぐり、「オメナヘ(忠誠の誓い)の塔(=天守)」の左横の門(中世の騎士の浮彫彫刻が美しい)からパティオに入ります。地形に合わせて建設されたお城の中庭は、ほぼ正三角形。底辺に天守、他の2辺に面した煉瓦造りの3階建てギャラリーは宮殿、頂点の内角に井戸があります。宮殿部分の主階は、南翼が給仕部屋、北翼は祈祷所と「執政官の間」、つまり、城の公的部分です。装飾も一番豪華で、特に、祈祷所は、モカラベのついたモサラベ風の天井と、精密なプラテレスコ様式の化粧漆喰装飾が施され、質素な城内で異彩を放っています。この部分の天井は他の部屋の2倍の高さ。このため、北翼には最上階がありません。最上階の南翼は、主人夫妻の寝室。 フアンの寝室は、今でも美しい嵌め木細工の天井に覆われています。この天井、色付きガラスをはめ込んで、銀の鈴を吊るし、全体が回るように仕掛けされていたのだとか。窓のない淋しい部屋も、ミラーボール効果とかすかな鈴の音で異次元空間に! といったところ。
さて、カスティーリャ王位継承を巡る内戦が続く中、フアンが亡くなると、息子のディエゴが、父の遺志を継いでフアナ・ラ・ベルトラネハ擁護を続けますが、結局、カトリック両王の前に屈し、大方の領地を失ってしまいます。とはいえ、ベルモンテ、ガルシムニョス、アラルコンなどの領有は認められ、宮廷での職も据え置かれたうえ、ディエゴは、以後、カトリック両王に忠実な家臣となり、1491年グラナダ最終攻撃の際には総司令官に任じられました。カルロス1世の治世には、コムネロスの反乱鎮圧に尽力し、グランデ(大貴族)の称号も与えられます。
時代は下って19世紀。モンティホ伯爵家に生まれたエウヘニア(仏語だとウジェニー。グラナダ生まれ 1829〜1920)は、パリ滞在時にルイ・ナポレオンに見初められ、仏皇帝ナポレオン3世となる彼と結婚(1830)。この頃、フランスでは、シャトーの修復が流行しており、彼女も、所有していたベルモンテ城の修復に乗り出します(1851)。この時に、南翼の木製の階段(ム写真)が付けられ、中庭に面した外壁は煉瓦造りに改築され、各部屋の天井の修復も行われました。修復費総額百万レアル。しかし、ナポレオン三世失脚(1870)とともに、修復作業も中断。後に、エウヘニアの甥ペニャランダ伯爵が修復を再開し、1880年代前半には、エウヘニアがフランスから連れてきたドメニコ会士たちが城を使っていましたが、彼らが、城内の化粧漆喰の装飾壁を塗りつぶし、天守の牢屋に扉を開け…城の姿はだいぶ変わってしまったようです。
前回の修復から一世紀以上。市民戦争中には牢屋として使われたこともあり、城内の損傷は著しい。至る所に天井を支える添え木が据え付けられ、赤を基調とした多彩色の装飾がかすかにのこる階段も、登るごとに軋む音が聞こえ、何だか不安になります。修復に向けて、現在、所有者と交渉中とのこと。

小林真紀

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●マドリッドからのお薦め遠足コース:A-III→(途中、ウクレスにも寄れる)〜A-III, 108km→CM310, 2km→セゴブリガ(Segobriga)ローマ時代の都市。寺院や浴場など、公共施設はかなり復元されている。特に、スペインには珍しい円形劇場がみもの。ウクレス城建設の際に、ここの石が利用されたとのこと。〜CM310, 6km→(Casas Lujan)→CM3011, 9km→プエブラ・デ・アルメナラ(Puebla de Almenara)村外れの山の上にお城あり。但し、途中から舗装のない道。最後は徒歩。立ち入り禁止の軍施設があるので、山の裏手から登らなければならない。築城は14世紀。続く世紀に増築が繰り返された。残念ながらだいぶ崩れているが、元の姿は想像できる。〜CM3011, 23km→N420, 2km→ベルモンテ。 筆者がここを訪ねたのは5月。セゴブリガからベルモンテにかけて、小麦の瑞々しい緑と、ラ・マンチャの土の赤と、空の透通る青。目の覚めるような鮮やかなコントラストに感動しっぱなしでした。